日本の時計メーカーは、日本の自然や伝統工芸など、日本の美を表現したモデルを多数製造している。本記事では、日本の美を表現することに特にフォーカスした腕時計を価格帯別に紹介する。
著者が日本製の高級時計にハマり、ブログを始めた経緯
・元々は高級時計に興味がなく、GerminのAndroidウォッチを使用。
・妻の付き添いでジュエリーショップに行った時に、高級時計の魅力を知る。
・帰り道に時計雑誌を読み、セイコー プレザージュ クラフツマンシップの有田焼モデルに目を惹かれる。
・近所の百貨店のセイコーショップで有田焼モデルの現物を確認。写真よりもさらに魅力を感じ、購入を検討するも、その日は買わずに帰宅。
・セイコー製品を中心にインターネットで高級時計の情報を調べまくる。
・高級腕時計の歴史、様々なブランドが織りなす奥深さに、さらに魅力を感じる。
・セイコーの歴史を調べるうちに、日本の時計メーカーを応援したい気持ちが湧きあがる(もちろん製品にも魅力を感じている)。
・グランドセイコーに興味が湧き、グランドセイコーについてインターネットで調べまくる。
・グランドセイコーブティックや雫石スタジオに関するYouTubeを見まくる。
・時計好きの知人に「一度グランドセイコーの現物を見た方が良い」と言われる。
・さらに、グランドセイコーをネットで調べまくり、だいぶ惹かれる。
・近所のグランドセイコーサロンに行き、白樺モデル(夜白樺モデルも)など見せてもらう。
・大変魅力を感じつつ(特に夜白樺モデル)、有田焼モデルの現物を初めて見た時の感動に敵わず、グランドセイコーサロンを後にする。
・有田焼モデルの現物を見た百貨店のセイコーショップに向かう。
・店頭に展示してあった有田焼モデルが無くなっていてショックを受ける。
・系列店に在庫を確認してもらうも全て在庫切れと言われる。時計との出会いは一期一会だと知る。
・セイコーサロンをGoogleマップで検索し、近くで一番大きそうな店に行く。
・クラフツマンシップの有田焼モデルと再び出会い、今回は当日に購入する。
・日本製の腕時計の魅力を多くの人(特に海外の人)に知ってもらいたくなり、日本語・英語・中国語にてブログを開始する。
20万円~:セイコー プレザージュ クラフツマンシップシリーズ

日本の伝統工芸に光を当て、機械式腕時計で日本の美を発信する「プレザージュ クラフツマンシップシリーズ」。2013年の限定モデルとして誕生した本シリーズは、日本の「モノづくり」精神を核に据え、琺瑯、漆、有田焼、七宝焼といった日本の匠の技を時計の文字盤に昇華させてきた。
日本人にとっては、自国の豊かな芸術的遺産と職人技への誇りを再認識させ、実用性と美が調和した一生ものとしての価値を提供する。一方、海外の消費者にとっては、日本独自の芸術性と物語性を持つ製品として、欧州の時計ブランドの明確な代替品としての価値を確立している。この二重の魅力は、本シリーズが単なる時間を測る道具ではなく、文化的なアーティファクトとして認識されていることを示している。
本シリーズのデザインは、日本的な美意識である「奥ゆかしさ」や「用の美」を体現している。一般的な時計が強調する鋭利なエッジや力強さとは対照的に、文字盤は柔らかく丸みを帯びた曲線で構成されており、光の当たり方によって繊細に表情を変える。この控えめながらも豊かな表現は、日本人が古来より大切にしてきた、華美でないところに美しさを見出す感性に深く響く。漆の持つ奥行きのある黒さや、琺瑯の温かみのある白など、伝統色が持つ特有の風合いが、日常の様々なシーンに自然に溶け込む親和性の高いデザインを生み出している。
細部に宿る職人技も、クラフツマンシップシリーズの大きな魅力である。例えば、多くのモデルに採用されているドーム型ガラスは、クラシカルな雰囲気を醸し出す一方で、光の反射による視差を生じさせることがある。同シリーズでは、この視覚的な問題を解決するために、秒針や分針の先端をわずかに曲げる「曲げ針」を採用している。これにより、針とダイヤル、インデックスの距離が最小化され、時刻の読み取りやすさが向上している。この工夫は、単なる視認性の向上に留まらず、時計全体のデザインに繊細な柔らかさを加え、所有者に「いいものを持っている実感」を与える効果を持つ。

このシリーズは、日本の文化において価値を形成する重要な要素である、製品の品質、職人の技術、そして長期的な信頼性を全て兼ね備えている。これは、単に価格が高いから価値があるという「ステータスシンボル」としての価値ではなく、その本質的な美しさ、そして創造の背景にある物語を評価する「静かなるラグジュアリー」という価値提案に基づいている。長時間のパワーリザーブやダイヤシールドによる表面加工といった実用的な機能は、時計を単なるファッションアイテムではなく、日常生活に寄り添う、信頼できる「一生もの」として位置づけており、この思想は日本の「モノづくり」の理念と深く結びついている。
日本の伝統工芸品は、厳選された天然素材、長期間にわたる修練で培われた熟練の技術、そして製造に費やされる膨大な労力と時間によって、極めて高い付加価値を持つ製品として生み出される。国際的な市場の基準で判断すれば、これらは本来、高価格で取引されるべきラグジュアリー製品の範疇に属する。しかし、多くの伝統工芸品は、海外の同種の高級製品と比べて価格競争力を持ち、時には驚くほど手頃な価格で流通しているのが実情である。この例に違わず、クラフツマンシップシリーズの時計は、グランドセイコーや欧州の高級ブランド時計に比べて驚くほど安価に購入することができる。

日本の工芸品は、華美な装飾や権威の象徴としてではなく、その多くが日常生活に根ざした「生活必需品」として誕生し、発展してきたという歴史を持つ。大正時代に柳宗悦らが提唱した「民芸思想」は、こうした「民衆の中から湧きだす工芸」に宿る「用の美」を再発見し、その価値を高く評価した。ここでいう「用の美」とは、単に装飾的な美しさではなく、使い込まれることで真価を発揮する道具としての美しさを指し、それが日常の生活を豊かにするという価値観である。
このような価値観は、伝統工芸品の価格を抑える文化的な要因として機能している。消費者は工芸品を「日常的に手に入る、質実剛健な道具」として認識しており、その価値を過小評価する傾向がある。これは、製品の価値が「希少性」や「アート性」ではなく、「実用性」に基づいているためである。つまり、伝統工芸品の価格の低さは、製品の内在的価値が低いことを意味するのではなく、その製品が国内の文化に深く根ざし、「日常の道具」として広く普及していることの証であると捉えることができる。価格は製品が置かれている文化的コンテキストに大きく左右されるため、製品自体の本質的な価値と必ずしも一致しないのである。
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日本の伝統工芸を織り込んだ高級時計「セイコー プレザージュ クラフツマンシップ」はグランドセイコーと並ぶ日本のモノづくりの最高傑作である | Japanese Luxury Watches
40万円~:ザ・シチズン「Iconic Nature Collection」シリーズ

ザ・シチズンの「Iconic Nature Collection」は、伝統的な日本の美意識と最先端の時計製造技術とを融合させた、ブランドの哲学を体現するものだ。その核となるのは、日本文化に深く根ざした「借景」と「をかし」の概念を、高精度クオーツと光発電技術「エコ・ドライブ」の機能的必然性をもって具現化した点にある。文字板に土佐和紙という伝統素材を用いることは、単なる装飾に留まらず、光透過率という技術的要件を満たすための革新的な解決策でもある。
「Iconic Nature Collection」のデザインは、「借景」という日本の伝統的な庭園手法から着想を得ている。借景とは、庭園の内部から外部の風景(山、樹木、建物など)を巧みに取り込み、庭園の構成要素の一部として見せる技法である。このコレクションでは、この概念が文字板のデザインに巧みに転用されている。各モデルの文字板は、日本の四季の移ろいを窓越しに切り取った風景として表現されており、着用者はあたかも伝統的な日本家屋の窓から外の景色を眺めているかのような感覚を味わうことができる。
本コレクションのデザイン哲学には、借景に加え、平安時代の古典文学に登場する「をかし」という概念が深く根ざしている。「をかし」は、美しい風景や日常の何気ない出来事、移ろいゆく季節に触れた際に心に生じる、儚くも美しい情趣を指す。これは、単に美しいだけではなく、その一瞬を切り取ることによって心の琴線に触れるような感動を伴うものだ。

ザ・シチズンは、この「をかし」の精神を和紙文字板を通じて表現している。和紙のもつ繊細なテクスチャーは、伝統的な水墨画の「滲み(にじみ)」や「掠れ(かすれ)」の効果を想起させ、それぞれのモデルが表現する季節の情景に奥ゆかしい奥行きを与えている。例えば、2025年発表のモデル「AQ4106-00A」は春の朝焼けを表現し、淡い白とピンクの色合いが空にたなびく雲と桜の花びらを連想させる。また、インディゴ染めの文字板を持つ「AQ4100-22L」は、夏の夜、川面に映る月明かりと蛍の光跡を表現している。
こうしたデザインの統合は、単なる表面的な美しさを追求するのではなく、時計を着用者にとって深く個人的な、瞑想的な体験の源泉とすることを意図している。ザ・シチズンは、時計が時間を知る道具である以上に、日々の生活の中で自然の美を再認識し、精神的な豊かさを与える存在となることを目指しているのだ。
70万円~:グランドセイコー「二十四節気」シリーズ

本シリーズは、日本の古来の暦法である二十四節気という概念を、現代の精密な時計製造技術と融合させた、同ブランドのアイデンティティを象徴するコレクションである。1年を24の期間に分け、季節の微妙な移ろいを捉えるこの伝統的な感性は、グランドセイコーの職人技術と相まって、単なる時間を測る道具を超えた、着用可能な芸術作品へと昇華されている。
本シリーズの鍵となる要素は多岐にわたる。まず、日本の美意識に基づいた哲学的概念がその根幹を成し、ダイヤルデザインの隅々にまで反映されている。さらに、ヘリテージコレクションとエレガンスコレクションという二つの主要なラインで展開され、それぞれが異なる季節の情景を描写している。技術面では、高精度なハイビートムーブメントと、独自のスプリングドライブムーブメントが戦略的に使い分けられており、これは機能性だけでなく、それぞれの季節のテーマに合わせた美的な表現を追求した結果である。卓越したザラツ研磨に代表される職人技と、細部にわたる人間工学に基づいた設計が、高い装着感と視覚的な魅力を両立させている。これらの要素が一体となり、本シリーズは高級時計市場において、熟練のコレクターから新規の愛好家までを魅了する、確固たる地位を築いている。

二十四節気とは、古来より東アジアで用いられてきた太陰太陽暦の暦法であり、一年を24の期間に細分化することで、季節の微細な変化を捉え、日々の暮らしに取り入れることを目的としている。日本の文化では、この細やかな季節の移ろいを感じ取ることで、心の安らぎや豊かさを得るという独特の感性が育まれてきた。グランドセイコーは、この伝統的な概念を単に文字盤に描くのではなく、特定の節気が持つ、はかなくも美しい一瞬の情景を、ダイヤルデザインに凝縮して表現している。
これは、日本の自然に対する深い敬意と、時間に対する独自の向き合い方を体現する試みである。例えば、春の春分をテーマにしたモデルでは、散りゆく桜の花びらが川面に浮かび、渦を巻いて流れる「花筏」という風情ある情景が表現されている。これは、単に「春」という季節を表現するのではなく、その中でも特に日本人が愛でてきた、儚くも美しい「瞬間」を切り取ったものである。こうした繊細な表現こそが、本シリーズを単なる季節をモチーフにした時計以上の存在にしている。

本シリーズは、コレクターにとって複数の点で魅力的な要素を備えている。まず、多くのモデルが限定モデルやブティック限定モデルとして展開されており、その希少性が所有欲を掻き立てる。さらに重要なのは、ダイヤルデザインに表現された日本人ならではの感性である。単なる美しい色や模様ではなく、花筏や月夜、深雪といった、日本の文化や自然に深く根差した物語が込められているため、時計を単なる機械ではなく、文化的な工芸品として捉えるコレクターに強く響く。
これらの要素が複合的に作用し、二十四節気シリーズは、グランドセイコーのブランドを象徴する重要な柱へと成長した。初期の四大季節から、より特定の節気へとテーマを広げ、日本国内だけでなく、海外限定モデルを日本市場に逆輸入する戦略的な展開も見られる。このような継続的なシリーズ展開は、グランドセイコーがこのテーマに長期的なコミットメントを持っていることを示しており、シリーズの評判を確立し、熱心なコレクターベースを築くことに成功している。
グランドセイコーの「二十四節気シリーズ」は、同ブランドの核となる価値観を完璧に体現したコレクションである。それは、究極の精度を追求する技術力、一切の妥協を許さない完璧な職人技、そして日本の自然と文化の繊細な美しさに対する深い敬意が結実したものである。
90万円~:グランドセイコー「雪白」シリーズ

グランドセイコーの「雪白」シリーズは、単なるモデル名を超え、ブランドのアイデンティティを象徴するアイコンとして世界的に認知されている。その英語圏での愛称「スノーフレーク(Snowflake)」は、日本の繊細な美意識と卓越した技術が融合した、普遍的な価値を持つ時計として多くの愛好家から親しまれている。グランドセイコーのダイヤルは、単なるデザイン要素ではなく、特定の場所の特定の瞬間を詩的に表現する「物語」を内包している。この物語性が、時計に情緒的な価値を与え、グローバル市場で他のブランドとの明確な差別化に成功した最大の要因だ。
グランドセイコーのスプリングドライブモデルは、長野県塩尻市にある「信州 時の匠工房」で製造されている。この地は、日本の豊かな自然に囲まれ、四季折々の美しい風景が広がっている。雪白ダイヤルのデザインコンセプトは、この工房から見える穂高連峰に降り積もる、清らかな雪景色にインスピレーションを得て生まれた。穂高連峰という具体的な地理的要素、そして冬の冷たい風や澄んだ青空という気候的要素が、ダイヤルの質感や青い秒針の色味に直接的に反映されており、雪白モデルは単なる美しい時計ではなく、「信州の自然」というストーリーを語る存在となり、特に海外のコレクターには「日本的な美」として強く響いている。

雪白ダイヤルは、単なる白色の文字盤ではない。その製作には、日本的な美意識と卓越した職人技が凝縮されている。一般的な白い塗料を用いると、ダイヤルの凹凸が埋まってしまい、独特の質感が失われてしまうため、あえて塗料を避けるという独創的な手法が採用された。
このダイヤルの和紙のようなざらつきのあるテクスチャは、0.04mmというミクロン単位の凹凸を持つ緻密な型押しによって生み出されている。さらに、このテクスチャを活かすために「光沢を抑えた銀メッキ」が施す。この技法により、光の加減や見る角度、距離によってアイボリーやシルバーに色味が変化し、単純な白色ではない、温かみと奥行きのある「純白」が創出される。この「光を操る」という設計思想は、グランドセイコーの哲学を如実に示したものだ。
雪白シリーズの核心をなすのは、グランドセイコーが誇る独創的なムーブメント「スプリングドライブ」である。これは、機械式時計の「ゼンマイ」を唯一の動力源としながら、クオーツ式時計の「ICと水晶振動子」で精度を制御する、世界で類を見ないハイブリッド型の機構となっている。スプリングドライブの最も特徴的な点は、秒針の「スイープ運針」だ。一般的な機械式時計の秒針が「チチチチ」と小刻みに動くのに対し、スプリングドライブの秒針は、まるで雪原の上を滑るかのように途切れることなく「スー」と滑らかに動き続ける。

この流れるような運針は、スプリングドライブが従来の機械式脱進機を持たず、ICによる磁気ブレーキでローターの回転速度を一定に保つことで実現されている。この滑らかな時間の流れの表現は、雪白ダイヤルが描き出す「雪原の上をゆっくりと流れる時間」という詩的なテーマと見事に呼応している。技術と美学が一体となり、時間そのものを芸術的に表現しているのである。
雪白モデルは、伝統的な高級時計の文脈にとらわれず、「最高の日常的な実用性」と「情緒的な美しさ」を追求した。その結果、多くの時計愛好家や新規顧客に「静かなる傑作」として受け入れられている。雪白は、単に時間を知る道具ではなく、身に着ける人の心に日本の自然と静謐な美意識を呼び起こす存在であり、グランドセイコーが世界に提示する「新しい高級時計のあり方」の象徴と言えるだろう。
120万円~:グランドセイコー「白樺」シリーズ

「白樺シリーズ」は、グランドセイコーがブランド設立60周年を機に発表した、次世代のデザイン文法「エボリューション9スタイル」を体現する旗艦コレクションである。この新たな文法は、従来の「セイコースタイル」の継承を前提としつつも、日本の美意識である「光と陰の間の美」というコンセプトを導入することで、審美性、視認性、そして装着性という実用的な要素をより一層洗練させることを目指した。これは、「正確で、見やすく、美しく、永く使える日本の腕時計」というグランドセイコーの理想を具現化したものである。
2021年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG)での「メンズウォッチ」部門賞受賞は、ブランドの国際的地位を決定づけた。その後の高い市場価値とコレクターからの熱烈な支持は、このシリーズが単なる一過性のブームではなく、グランドセイコーの新たな象徴として確固たる地位を築いたことを証明している。
グランドセイコーのモノづくりは、メカニカルムーブメントを担う岩手県の「グランドセイコースタジオ 雫石」と、スプリングドライブ・クオーツを担う長野県の「信州 時の匠工房」という、二つの拠点によって支えられている。この「白樺シリーズ」は、それぞれの工房が紡ぐ独自の物語を、一つのコレクション内で表現するというユニークな戦略を採用している。
シリーズ初のモデルであるSLGH005は、雫石工房の近くに広がる荘厳な白樺林からインスピレーションを得ており、その文字盤は力強く彫りの深い型打ち模様が特徴である。このデザインは、SLGH005に搭載されたメカニカル・ハイビートムーブメントの力強い鼓動と見事に呼応している。一方で、その翌年に登場したスプリングドライブモデルのSLGA009は、信州工房近隣の白樺林の静けさと繊細さをモチーフとし、凹凸が少なく、より滑らかで上品な文字盤に仕上げられている。これは、スプリングドライブの秒針が滑るように動く静謐な運針と調和している。このように、文字盤のデザインがそれぞれのムーブメントの特性と深く結びついていることは、単なる自然モチーフの引用を超えた、深いレベルでの機能美の追求と言える。

SLGH005は、次世代メカニカルムーブメント「Cal.9SA5」を搭載した自動巻きモデルである。このモデルの文字盤は、製造拠点である雫石の広大な白樺林の「荘厳さ」と「生命力」を表現している。
Cal.9SA5は、36,000振動/時という高振動でありながら、最大巻上時約80時間という長時間パワーリザーブを実現している。これは、従来の機械式時計においてはトレードオフの関係にあった性能を両立させた、グランドセイコー独自の技術の結晶である。この偉業を可能にしたのが、効率性を飛躍的に高めた「デュアルインパルス脱進機」と、安定した動力供給を実現する「ツインバレル」である。さらに、水平輪列構造の採用により、ムーブメントの厚みをわずか5.18mmに抑え、ケース全体の薄型化にも貢献している。この技術的な成果は、セイコーのコアコンピタンスである「匠・小・省」という哲学を象徴するものである。

Cal.9SA5のムーブメントには、シースルーバックから鑑賞できる美しい装飾が施されている。これは、グランドセイコースタジオ雫石の近くを流れる「雫石川」の流れに着想を得たストライプ模様「雫石川仕上げ」である。ムーブメントの構想段階からデザイナーが参加し、自然の情景をデザインに落とし込んだ結果であり、グランドセイコーの「機能美」の哲学がムーブメントの細部にまで貫かれていることを示している。
SLGA009は、スプリングドライブムーブメント「Cal.9RA2」を搭載したモデルである。その文字盤は、信州・時の匠工房近隣の広大な白樺林の「静けさ」と「繊細さ」を表現している。

Cal.9RA2は、スプリングドライブの最大の強みである月差±10秒(日差±0.5秒相当)という高精度を維持しつつ、最大巻上時約120時間(約5日間)という超長時間駆動を実現している。これは、動力伝達効率を高める「デュアルサイズバレル」の採用によるものである。従来の高級スプリングドライブは、部品数の多さから厚くなりがちという課題があったが、Cal.9RA2は、パワーリザーブ表示を裏蓋側に配置し、効率的な「オフセットマジックレバー」を採用することで、厚みをメカニカルモデルと同等の11.8mmに抑え、低重心化にも成功している。特に、水晶振動子とICを真空パッケージに封入した「高精度スプリングドライブパッケージIC」は、温度や静電気の影響を排除し、極めて高い精度を安定的に実現する独自技術である。
Cal.9RA2の裏蓋は、厳寒期の信州地方に現れる「霧氷」に着想を得た「信州霧氷仕上げ」が施されている。この仕上げは、霜のようなマットな質感が特徴であり、ダイヤモンドカットが施された受の稜線が、夜空に煌めく星のように鋭い輝きを放つ。静謐な白樺林をモチーフにした文字盤デザインと、静寂な冬の情景を表現したムーブメントの仕上げは、SLGA009の全体的なコンセプトに一貫性をもたらしている。秒針の滑らかな動きと静かな文字盤の調和は、スプリングドライブならではの美学を追求した結果と言える。

「白樺」シリーズの成功は、グランドセイコーが世界市場で独自の地位を確立するための、明確な方向性を示した。それは、日本の自然観を普遍的なデザイン言語として昇華させること、ムーブメントと外装の両面で革新を続けること、そしてその全てを「機能美」という一貫した哲学で結びつけることである。白樺は、単なる美しい時計ではなく、グランドセイコーがこれから60年、そしてその先へと進むための羅針盤となる、真の傑作と言える。
まとめ
今回は、日本の美を表現した腕時計を価格帯別に紹介した。気になるモデルがあったら、ぜひ店頭で実際に手に取ってみることをお勧めする。
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